初めての東京
気がついたら、梅雨が明けていました。
梅雨入りは毎日熱心に確認していたはずなのに、梅雨明けはあっという間でした。
近頃本当に暑いもんな。
従姉妹たちが東京にやってきました。
彼女たちにとっての、人生初東京です。
従姉妹たちが東京に来ることになったのは、つい1か月ほど前。
「原宿! 原宿!」と歓喜している声が、おばあちゃん家の広い茶の間に響いていました。
1日目は朝から原宿へ。
というのも、原宿に行ってみたい憧れのお店があるらしいのです。
久しぶりと言っても1か月ぶりの従姉妹、祖母や叔母さんは何も変わっていなくて、安心とともに嬉しくなります。
外を歩いているだけで肌が焼けるのを感じるような暑い日だったので、体力温存のために乗り物をできるだけ使った移動をすることが決定します。
しかしタクシーは6人乗り。運転手さんを抜いて、5人しか乗れません。
この場には従姉妹2人、祖母、叔母さん、母、弟、私の7人。
結果、私たち姉弟は電車で原宿へ向かうことになりました。
お店を出て、20分ほどの距離を歩きます。
世界ってこんなに暑かったっけと困惑するほどの猛暑日です。
とりあえずイヤホンから流れる音楽を聴きながら、駅へと向かいます。知らない曲のはずなのにラスサビで一緒に口ずさむのだから、終始ダルがらみしてくる弟も可愛いものです。
電車に揺られ、原宿駅に着いたと思えば「もうすぐ着くよ」と言う連絡が来ます。
二人で喋りながら待っていた時間はほんの数分。無事にたどり着いた4人と合流し、お店の整理券を貰います。
整理券を貰うために早く来たものだから、肝心の原宿はまだ閑散としています。人が少ない竹下通りなんて初めて見たものですから、心底驚きました。
結局どこも開いていないので、朝から開いているガチャガチャ屋さんに入ります。
今は無きアーケードゲームのガチャガチャを見て、懐かしさを感じました。今でもガチャガチャが作られるということは、それほど愛されているんだろうな。
原宿の案内をするという定で来た私ですが、実のところ、竹下通りには1度か2度くらいしか来たことがありません。
去年食べ歩きをした記憶を必死で探りながら、お勧めのお店へ行くことにします。
通りにあるお店へ吸い込まれるように入っていく従姉妹たち。
その都度立ち止まりながら、いちご飴を食べたり、ポテトを食べたりします。
気づけば最初のお店へ行く時間になっていました。
整理券を持ちながら、外で並びます。
説明を受けて中へ入ります。たくさんのグッズがそこかしこに置いてあって、二人は目を輝かせていました。
カラフルなドリンクを買って、グッズを持つ彼女たちについていきます。
店員さんの前に立った二人は、緊張からなのか長年の憧れが叶った興奮からなのか、笑みを忘れたような真顔を浮かべていました。
でも何度も復唱して一生懸命覚えたであろう掛け声を大きな声で言い、飲み物を貰った後に「うれしい……っ!」と満面の笑顔でこぼしているのだから、この顔を見られるだけで来たかいがあるってものです。顔には出ないけれど、幸せの絶頂を迎えていたことでしょう。
尚、横から見ていた私は、口から漏れる可愛いを堪えることに必死でした。
太陽が肌を直接焦がす感覚を覚えながら、あまりにも暑いので近くにあるファストチェーンに入ります。
このファストチェーンはおばあちゃん家でしか行く機会がないので、おばあちゃんと行けるのは嬉しかったりします。
結局人数が多いので、弟と二人席に座るんですけどね。
スマホを見ていると何故か、お互いの友人を紹介しあう会が始まります。
夏休みが始まってもクラスメイトの名前を半分ほどしか覚えていない彼に呆れながら、既に名前を聞いたことがあり人数が少ないものとして、動画作成時に作ったフォルダを漁ります。
すると、謎にメンバーを覚えていく弟。
ただ、特徴で覚えているので、少しでも見た目が違うと混乱するみたいです。3つしかない選択肢に頭を悩ませながら、クイズ大会のようなものが始まります。
正答率が五分の時に、数分後に雨が降るからとまだお店にいることが決定します。
ほとんど写真を撮らない弟のフォルダにある友人は、想像よりバラエティ豊富で、色々な人の写真が数枚ずつ撮られていると言った調子でした。
雨予報が消え去った時には正答率が9割を超えていて、素直に尊敬しました。会ったことを無い人を覚えるのって難しいのに、ただでさえ名前を覚えることが苦手な弟が覚えたんですもの。凄い話です。
原宿から出て、渋谷へ向かいます。
ハチ公と控えめに写真を撮って、109に行きます。
その後、お寿司屋さんに行きました。
食べ歩きで全くお腹が空いていなかった従姉妹たちと、目玉が飛び出るほど絶品なお寿司たち。弟と私で平らげていました。本当に美味しかったのです。
2日目。
第1部のキッザニアに行くらしい従姉妹たち。
前日の友人との夜更かしトークのおかげで全く目が冴えない中、反対側の電車に乗るというハプニングを経て、従姉妹たちの元へたどり着きます。
私は一度電車に乗ると、地上に出るまで間違った方向へ進んでいることに気付かないという病を持っています。今回も一駅で気づくことはなく、見える景色が違うという事実に反対側へ向かっていることを知らされます。前回は隣町へ続く橋を渡ったところで気づいたので、前よりましなのかもしれません。頼むから駅名読んで気づいてくれ。
母と合流し、洋服屋さんへ入ります。
服を選ぶのは苦手だったりします。試着とかをしていると疲れてくると言うか、自分一人だとどうすればいいか途端にわからなくなるのです。
手を引くように進む母の後ろを歩きます。実際服は足りていないので、買わねばならんのです。
一緒に連れて行ってくれる母はありがたいです。
楽器屋さんでバンドスコアを見て、うどんを食べて、従姉妹たちと合流します。
近所で親戚も含めてご飯を食べようということになっていたので、そこへ向かいます。
道中、従姉妹たちの恋愛話を聞きます。
私にはなかった楽しみを感じている従姉妹が語る恋バナは、毎度最高に面白いのです。小学生感満載でほんと愛おしい。
というか衝撃の連続すぎて、理解が追い付かないまであります。いきなり彼氏いるよとか言い出すんですもん、7歳が。
自分そんなんだったけと頭を捻っても、絶対そんなんではなかったので無駄な抵抗は諦めます。
二人に挟まれながら歩き、なんとかお店に辿り着きます。
同い年の従姉と私、弟に従姉妹たち。叔父さんなどが揃ったところでご飯を食べだします。
久しぶりに従姉に会えて、やっぱり嬉しいのです。
親戚の中では何かと一番上になることが多い私ですが、彼女だけは自分より本当にほんの少し年上です。同い年かと疑うほど大人びた彼女と遊ぶことが、幼い頃からのおばあちゃん家での楽しみでした。
彼女は運動神経が半端じゃないほど良くて、走るのがとんでもなく速いのです。従姉と鬼ごっこをしたが最後、手加減なしでは戦えなかったりします。
今度大会に出ると笑って語っており、マネージャーをやっている従姉が久しぶりに試合で走るんだなと思うと、なんだか嬉しかったりします。
止まることのない恋バナを聞きながら、ご飯を食べまくりました。
親戚と別れた後、家族で家に帰ります。
今度従姉妹たちに会えるのはいつかな、お正月でしょうか。
今日来れなかった従弟とかにも会いたいですね、部活頑張ってるもんな。
10歳の従姉妹に「将来東京住みたい?」と聞きました。
すると彼女は「うん」と頷きました。
その回答にほんの少しの成長と寂しさを感じながら、嬉しそうにお土産を触る彼女を眺めていました。
貴方が6つの時に同じことを聞いたら「この県に住みたい」って言ってたんだよ、覚えていないだろうけど。
生まれた時から東京に住んでいた私は、きっとその感覚がわかりません。
何度おばあちゃん家に行っても心が躍るし、田んぼを見れば今が休みであることに幸せを覚えます。川や山に囲まれれば、その雰囲気に胸が高鳴るのです。
私とは正反対な、女子力が高く流行りもの好きでお洒落な従姉妹は、いつか東京に住むのかもしれません。
そんな時、私は何をしているんだろう。どこに住んでるんでしょうか。
将来の従姉妹たちが楽しみだなと思いつつ、最終日も東京観光を楽しんでくれるといいなと願っています。